「360°」
< 値段交渉 >
乗降扉のない「トゥクトゥク」に乗って、
夜のチェンマイを走る
=タイ、2004年10月

タイ北部のチェンマイ市で先週、「トゥクトゥク」と呼ばれる小型三輪タクシーに乗った。「トゥクトゥク」を利用するのは数年ぶり。

「空港までいくら?」

ホテル前で客待ちしていた運転手にたずねる。

「50バーツ(約140円)」

あらかじめチェンマイ在住の友人から、空港までは50バーツくらいと聞いていたから、すぐに乗り込んだ。

タイを初めて訪れたのは12年前。首都バンコクでは、目的地までの料金は運転手との交渉次第。車体の大きい四輪のタクシーより、小型の「トゥクトゥク」の方が当然安い結果になった。当初、この「トゥクトゥク」を結構利用していた。

そのうち、観光客の間から、過剰な料金を請求する四輪タクシーの問題が大きくなる。観光立国のタイとしては、イメージを改善するため、現在では四輪タクシーは「メータータクシー」を導入し、それが主流となる。

「メータータクシー」が走り始めるようになると、まず、その安さに驚かされた。「トゥクトゥク」を使っていた頃よりも安上がりだった。その上、料金交渉の煩わしさから解放されたのだ。

だが、タイ第2の都市チェンマイでは「メータータクシー」は少なく、いまでも料金交渉が前提の乗り合いバスや「トゥクトゥク」が主な移動手段となっている。

バスターミナルに着くと、運転手との駆け引きが始まる。重たい荷物は安全な場所に隠す。荷物を持って値段交渉をすると足元を見られるからだ。

ターミナルに入ることのできない流しのタクシーに声をかけることもある。しかし、値段にすると30円ほどの差なのに、なぜここまでこだわるのか。おそらく、だまされたくないという自己防衛。あるいは生き抜くための自分の能力を試そうとする倒錯した感覚だろうか。

日本は今、他の国に比べて、生活は確かに豊かになった。インターネットが普及し、個人が手にする情報量は格段に増えた。だが、スーパーやコンビニに行って、物を買う時、値段交渉をすることなく一方的な値段を決められている。

「どうしてこれがこの値段なの?」と考えない生活を続けていると、物を一つ買うのにいちいち料金を交渉するのがしんどくなってくる。だが、お金を払う時、自分の目で見て納得して払う。それは生活の基本。

なのに、それが日々の生活の中から忘れ去られていっている。便利なシステムなのだが、時になぜか釈然としない。
(10月23日)

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