『 戦場カメラマン 』
( 石川 文洋 朝日新聞 1986年 )


 「 死を恐れず戦うほどの信念は政府軍にはなかった。彼らは、相手を殺すよりも、自分が一日でもよけいに生きのびることができればよかった。自分が生きるために戦っているのだった 」 ( P92 )

「 ジャーナリストの仕事は、自分の取材したことを一人でも多くの人に理解をしてもらうように努力することでもある 」 ( P654 )

「 それでも、自分の選んだ道の上を歩いている充実感があった 」 ( P665 )

「 カメラマンはそういった面で疑い深い人種であり、たとえそれが本物とわかっても、自分で直接現場に行ってシャッターを押さない限り、なかなかなっとくしない」 ( P718 )

「 民衆の苦しみを見続けてきた四面像の表情は昔とかわっていない。 よくそんな優しい顔をしているな、と思った。 バイヨンの像は、 そんな私の気持ちを知ったら、こう言うかもしれない。 ” どんなにつらくても、笑顔を忘れなければ、 最後に勝つことができるのさ ” と 」 ( P902 )

人間は孤独であると思う。 人の死も、 ごく近い肉親以外は、 時がたてば記憶からうすれていく。 死とは全く寂しいものだと思いながら、それなら自分に妥協しながらでも生きているということが素晴らしいのか − ベトナムの仲間の遭難にあって、 私には人生がわからなくなるのである 」 ( P942 )

「私は、泰造君は死んではいない、泰造君が大切にしていた 『 自由 』 と 『 自己の中の存在感を得るための冒険 』 の中で、彼の気持ちはまだ生きていると思っている 』 ( P960 )

取材に出かけるとき、 何度も何度も持っていった本である。 ジャングルの行軍には多くの荷物を持っていけない。 そんな時の、 手放せない必需品 (生活品 ) のひとつ。 何度も読み返してページがぼろぼろになっている。現場に長く立ち続けてきた筆者の思い、考えが詰まっている分厚い歴史書でもある。
撮り続けることの意味のヒントを教えてくれるようだ。