金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)


「 帝国は 果たして このままでいいのか 」

                  
                
            
                 帝国は 果たして
                 このままでいいのか


              日本は 果たして このままでいいのか。
              そりゃ日本は、飽食気味で いいのかもしれな  
              いが アジア アフリカ、ラテンアメリカで
              隣の民衆が みな
              飢えと 病に斃れても 日本はいいのか。

              民衆の経済が 帝国の首枷によって 従属し  
                てゆき
              帝国は 支配の手を伸ばして 植民地と化そ
               うとしてる。
              日本は 弱小民族の この苦痛と呻吟を眼
               前にして 恥とは思わぬのか。

              心ある 日本の友よ!
              日本は 果たしてこのままでいいのか。
              軍備を増強し、自衛隊の銃の筒先が 隣りの
               国に
              狙いをつけ、弱小民族の生を脅かしても い
               いのか。

              帝国が、弱小国を侵略し、土地と穀物を奪い
              帝国の支配のもとで 民衆は呻吟しており
              肉体と精神が奪い取られているのに
              日本は 果たして このままでいいのか。

              心ある 日本の友よ!
              あなたがたの飽食と 豊饒な食卓が
              どこの国の どのような人たちの
              動労によって 血の代価によって
              賄われているかを 率直に読みとることを  
               知らねば駄目だ

              わたしは今、小さなペンを手にとって
              帝国の銃の筒先と、民衆の喉もとを 食い千
               切っている
              帝国の首枷に挑もうと思う
              帝国の首枷が 如何に 民衆の生命を脅かし
               ており
              帝国の首枷が  如何に 民衆の生活を覆い尽
               しているかを
              表明しようと思う

              わたしの すべての言葉は 帝国の首枷を断
               ち切らんとして 浴びせる
              民衆の 恨の 爆発たらんことを欲する
              帝国の銃の筒先と 帝国の首枷が この土地 
                から、この地上から 消え失せるまで
              わたしは どこにいようとも いつでも
              民衆の恨の肉弾を撃ち放ち
              いつか必ず 民衆の勝利の旗を 高く掲げ
               ようと思う

              帝国の首枷が断ち切れ 帝国の銃砲が微塵に
               砕かれた後
              民衆の旗幟は 新しい生の方式と 新しい
               社会の秩序、
              そして 平和の構造の上で 民衆の主体的な
               生の道標と なるであろう。

              その日が 来るまでは
              帝国の首枷を狙い、帝国の銃砲を狙い わた
               したちは皆、
              居るその場から みずからを肉弾として 撃
               ち放たなければならない。

              心ある日本の友よ!
              日本は 果たして このままでいいのか。
              この地に あなたがたとともに 新しい秩序
               を生むまでは
              帝国の首枷を あなたがた みずからが 打
               ち砕かなければならない
              帝国の銃砲を あなたがたの力で うち砕か
               なければならない。
              帝国の支配の野望が この地上から 永遠
               に消え去るまで
              わたしたちは 健全な良識と 正義と 平和
               の精神をもちつづけ
              わたしたち みずからを武装し 肉弾となっ
               て 帝国の首枷を
              爆破しなければならない。

              帝国の首枷は 侵略と搾取、監禁と支配の鉄
               鎖となった。
              帝国の支配者は その誰もが 弱者の血を吸
               い
              みずからを肥えさせており、
              弱き者の 自由を奪い あらゆる自由を 独
               り占めしている。
              帝国は 弱小国の資源を奪い 自国の腹を満
               たしており
              弱小国を 帝国に従属させ ついには
              民衆の 日々の糧さえ 奪っているではない
               か。

              つまり 帝国は 飽食の共和国を 造りあげ
               たのだ。
              帝国の 首枷は いまや 抑圧の鉄鎖となり
              束縛の獄となり、
              搾取の網となり、
              支配の 断末魔の 手段となってしまった。

              わたしは 敢えて この小さなペンで 巨大  
                な帝国の あらゆる恥部を
              残らず暴きだそうと思う。
              ここに記される すべての言葉は
              帝国の首枷が消え失せ、
              帝国の銃砲が打ち砕かれる その日まで
              民衆の生が 自由に、平和に、
              主体的に 営まれる
              その日まで。

              民衆解放のための 小さな肉弾になろうと思
               う。

                          一九八五年五月一八日
                                     金明植

出典は 井上光晴編集 『 辺境 』 1 (影書房 第3次・季刊 秋号1986年・10)より抜粋。初めて、この詩に触れたとき、その激しさのあまり、実感できなかった。その後、何度か読み返す機会があった。しかし、やはりしっくりこなかった。しかし、最近になって、じわじわとその内容が頭と心にしみこんできた。
詩の内容の厳しさ・激しさのあまり、かえって読み手である自分が冷静になって、現実の世界を考えさせられる効果を持っている。
帝国の同朋よT