タマニャー山の高僧

        −ビルマ− 

『月刊 宝石』(1999年3月号)

  軍事政権と民主化勢力の対立が続くビルマ。 さらに、隣接するタイ国境地帯ではカレン人による反軍政への武装闘争も続く。
   英国から独立して半世紀を経た現在でさえ、一般市民に平和が訪れる気配はない。  軍政権による強制労働、強制移住という権力の濫用は続き、 国内で政治を語ることは、即刻刑務所行きという厳しさもある。
  1988年が最後となった大規模な民主化を要求するデモ。 国民はそこで流した血の記憶を忘れていない。不満はつのるが爆発までには至らない。
  
一般の外国人が観光で同国に入ったとしても、ビルマ国内の政治的な厳しさは見えてこない。それほど、同軍事政権の締め付けは厳しい。そんなビルマで、政治的な対立や内戦とも無縁の空白地帯がある。カレン州に立 つタマニャー山一帯である。
   タマニャー山に住む通称・タマニャーサヤドゥ( 大僧正 )のもとには、ビルマ全土から 数千人の僧侶や参拝の人が毎日訪れている。彼の姿を拝んだり説教を聞いたりするためだ。サヤドゥや仏像に熱心に手を合わせて祈る巡礼者の姿には緊張感が漂う。 また、タマニャー山に参拝に来る人全員に菜食のみの食事が無料で供される。 公務員の月給が千チャット(日本円で約420円 )の同国に於いて、その食事の経費は一日で50万チャットにも達すると聞いた。 それだけの金額をすべて献金でまかなっている。 さらに、 平和を愛す菜食主義者の大僧正を慕って、 タマニャー山とその麓の村には圧政と内戦を逃れた数万人の人々が平和に暮らしている。喰うのに困ればタマニャー山に行けば生活できるそうだ。 内戦で身も心も傷ついた元兵士も仏門に入って、新たな人生を踏み出している。
   1996年7月に軟禁状態から解放されたノーベル平和賞受賞者 ・アウンサンスーチー氏が、首都からの遠出を軍部に唯一許されたのは、タマニャー僧正を訪問する時だけであった。 仏教徒が8割を占める同国に於いて、 タマニャーサヤドゥ僧侶は多大な影響力を持つ。  さすがのビルマ軍政府も彼には手が出せないという。


 

仏教徒が8割を占めるビルマにおいて、タマニャーサヤドゥ師 は多大な影響力を持つ。さすがの軍政府も彼にはてを出せないという。





 

 


アウンサンスーチー氏は、大僧正に会うときだけ首都を出ることを許された( 撮影者不明



首都・ラングーンからきた熱心な信者たちが祈りを捧げる。








僧侶だけでなく、参拝者全員に食事(菜食)が無料で供される。


 

 


 

 

タマニャー山とその麓の村には、多くの難民が住む。