沿線の思惑が走る
アジアハイウェイ

─ ビルマ/タイルートを行く (3) ─

ビルマとタイ国境に渦巻く利権

 タイ側のメソット郊外には、台湾や香港資本の縫製工場が七〇近く稼働している。人件費の安いビルマ人の出稼ぎ労働者を頼っているのだ。
 〇五年四月、ビルマ側の町ミャワディから車で北に約三〇分。人口二万人に膨れあがった新しい町ココを訪れてみた。カレン人中心の町である。道路も舗装整備され、驚いたことに、町の中には電気が引かれ、幹線道路には街灯がつけられているのだ。
「電気はタイ側から引いているのさ。この町は、SPDC、KNU、タイ政府のお墨付きだよ。将来的には、町の周辺にも工場を造っていくつもりだ」
 ココの町のはずれに、四車線の大きな道路が整備中だった。
 「『アジアハイウエー』が開通したとき、この町とまっさ先に結ぶ道路をもう準備しているのさ」
  町を案内してくれたカレン人が自慢げに話す。


 一向に進まない国内の民主化のため、米国や欧州はビルマに厳しい経済制裁を課している。一時期、ビルマを域内に取り込んだASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国は、制裁による対決から対話による民主化移行を支援した。しかし、一九九七年のアジアの経済危機以降、その対話の裏付けとなる経済支援を再開することができていない。
 政治的・経済的に苦境に陥っているビルマは、中国に接近。経済援助を受ける見返りに、中国雲南省とビルマを南北に貫くイラワジ川の浚渫工事を中国に依頼。中国はインド洋への出口としてビルマを利用できるのだ。


ビルマ側へ渡る荷物を満載したトラック。 タイ国境(右の門)のチェックポイントで通関のため待機中。

 一方、インドやアセアン諸国は、中国の南下を恐れる。ビルマの民主化運動家に同情的な政策をとっていたインドは、SPDCと関係を回復させた。また、インドとタイは、「対中国」で結ばれる。ビルマを南北に走るイラワジ川を切断するために、東西を結ぶ「アジアハイウエー」を政治的に利用したいのだ。二〇〇三年一〇月、タイ資本によって、ビルマ側カレン州内の道路整備が始まった。タイの首都バンコクとビルマの首都ヤンゴンを一〇数時間で結ぶ道路を目指している。

 これまでのタイ政府は、ビルマ軍と直接対峙するのを怖れ、緩衝装置として、国境地帯でのKNUの活動を見逃してきた。だが、両国が経済的に直接的に結ばれた今、SPDCと和平交渉に応じるようKNUに圧力をかけている。
 交通の要所であるカレン州は、長年の紛争のおかげで鉱物資源も手つかずのまま。キンニュン失脚後、建設が中断されていたアジアハイウエー整備が再開されたようだ。「アジアハイウエー」という経済的な大動脈の完成が、カレン州内の紛争に終止符を打つ可能性が出てきた。ビルマとタイ国境では、利権が渦巻く。
 タイや中国などの隣国、あるいは外国企業は、ビルマの民主化やカレン人の生活向上のために資本投資をするわけではない。このままだと、SPDCによるカレン人への強制労働は続き、六〇万人に及ぶ国内避難民は忘れられたままになる可能性が大きい。

6車線のタイ側は毎日、車が忙しく行き交う。
しかしビルマ側の道路は1車線で、パアン〜国境間は、
トラックはすれ違えず、1日交代で上りと下りの一方
通行のシステムを取る。