「360°」
< 忘れられた内戦 >

カレン軍ゲリラ兵とともに行軍
(2003年4月)

「『貴様!』『きおつけ!』『ばかやろう!』─これはどういう意味なんだ」 急に声を荒げたレゲーさんは、さらに言葉を続けた。
「おまえさんは身体が大きいな。昔このあたりに来たプコー(日本人=カレン語で<短足>の意)は、みんな小さかったよ。でも、プコーは勇敢だったなあ。そのプコーたちは、村の人をつかまえては殴ったり、ひっぱたり、ずいぶんとひどいこともしたんだよ。だから我々は英軍と一緒に日本軍相手に必死で闘ったぞ」
私は、レゲーさんの最初の質問に答えないまま、冗談で言い返した。
「私はプコーというより、タコー(長足)だろ。だから今は逆に、前線に行くのが怖い臆病者なんだ」
ビルマ(ミャンマー)のジャングルの奥深くでは、今も戦闘が続いている。ビルマ軍事政権に武装抵抗を続ける、「少数民族」カレン民族の戦いである。その内戦は現在、世界56年目。第2次大戦後、世界で一番古い内戦となっている。
日本人が来たというので、レゲーさんは朝一番、カレン語でメトピーと呼ばれる「おこわ」を差し入れてくれた。サトウキビから作ったタカスィーという粉をつけて食べてみる。口の中に甘さが広がる。
「おいしい、おいしい」と喜ぶ私に、70歳をこえるレゲーさんは、60年前の話をしてくれる。
「その後、敗走する日本の兵士を助けたり、かくまったりしたよ。困っている時は助け合うんだろ。だからさ、今は、日本が我々を助ける番だよ」
敵対したり、助けたり。六十年以上も前のことだから、そのあたりの事情はよく飲み込めない。
私は、時間と体力の許す限り、カレン軍の最前線を訪れている。そのカレン軍の支配地域には、かつてビルマに侵攻した日本軍が通った道もあった。
新聞やテレビのニュースでは毎日、どこかの国の戦争のことが報じられている。今、一番ホットな戦争はイラクだろう。だが、日本にも深い関係のあるビルマ内戦の現状は、これまでも今も、その現状はほとんど伝えられることはない。
日本国内では今年、戦後六〇年を記念する企画が進んでいる。だが、ビルマ辺境で続くこの内戦は、ずっと忘れられたままである。

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