「360°」
< 電気も水道もない >
朝靄のぬけきれない中、水くみに出かける
=エルサルバドル・サンアントニア村

夜8時過ぎ、真っ暗な家の中。土間に吊ったハンモックで寝返りを打つには、少々肩と背中が窮屈だ。隣の部屋では、鼻をすするような寝息にまじって、時に、寝言が聞こえてくる。

改めて気づいたことなのだが、寝言も当然スペイン語である。ここは、中米7カ国の中で国土が最小の国エルサルバドル。首都からバスを乗り継いで3時間、隣国ホンジュラスが近い、山奥のサンアントニオ村に入った。

宿を提供してくれたロメロさん(51)は、5時過ぎには仕事に出る。ごそごそとする音で目が覚めた。早朝の村を歩いてみる。太陽はまだ昇っていない。鶏がけたたましい声を上げる薄暗い中、湧き水や井戸水を汲むために、家を後にする女や子どもの姿を見かける。 

首都サンサルバドルでは6月1日、新大統領の就任式が行われた。92年の内戦終結後から数えて、3代目の大統領である。ラジオのパーソナリティ出身の39歳と若い。就任式の会場は、今の経済政策を支持する人びと5000人が集い、熱気に包まれた。

エルサルバドルは80年代の東西冷戦当時、多くの犠牲者を出した「熱い戦争」の場になった所でもある。貧しい生活の改善を求めて立ち上がった人びとが、右か左かの主義主張に巻き込まれて闘った。内戦中、当時の人口500万人の約1割、50万人が米国に逃げ出した。

内戦が終結して13年、町の雰囲気もすっかり変わってしまった。言葉ではなかなか表現できないが、市中を覆っていた軍への恐怖はすっかり無くなっていた。

知人に会うためソンソナテという地方都市を訪れた。首都から出るバスは、日本でも走っていないようなボルボ製のデラックスバス。約1時間、日本の高速道路を思わせるハイウエーを走って、ソンソナテの中心部に到着。

驚いたことに、そこにはショッピングモールが姿を現していた。2001年、コロンという現地通貨が米ドルとなった。その影響は目に見える形で出てきている。

サンアントニオでの住み込みを手配してくれた米国人の教会関係者が言った。

「電気も水道もない村の中に、四輪駆動車がたくさん走り回っているんだよ。仕事もないのに、お金だけは余っている。米国にいる100万人を超えるエルサルバドル人が、せっせと送金してるのさ。5年間住んでいるけど、貧しいのか、豊かなのか、よくわからない」

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