金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)


             「 一 帝国の同朋よ 」


           プルトニウム


          
 プルトニウム二九〇キロは 殺りくの火薬で
           
 はないのか

            殺りくの 火薬は 兵士に 市民と 子どもたちと 病弱な老人
            に まっさきに 撒かれるのではないのか

            東京湾に入ってくる 戦争の兵器と
            無感覚な 東京都民の 飽食と 享楽と 性
            の 宴は
            プルトニウムとともに 爆発する 殺りくの
            火薬では ないのか

            遠からず
            東京の空には 殺りくの灰が 覆うこととなり
            地上には 亡骸が 山となすであろうし
            海上には 無人船が 浮かんでいるであろう
             し
           
            きみの 友人たちは 戦場へと 駆り立てら
             れるだろうし
            きみの 隣人たちは 戦争のため 弾薬を運
            ぶことになろう

            プルトニウム二九〇キロは 殺りくの火薬で
             はないのか

            きみたちの 平和憲法と
            きみたちの 平和擁護は
            宣戦を 布告する 文書となろう
            その日に
            きみたちの 悲しみは 銃剣の前で跪く降伏
            となるであろうし
            きみたちの 呻吟は 核兵器の前で 妥協す
             る 逃亡となるであろうし
            きみたちの 慟哭は 血の海のただ中で踊
             る 喜びとなるであろうし

            プルトニウム二九〇キロは 殺りくの火薬で
             はないのか

           東京の地下は 戦火に燃え 灰と化するであろ
             う
           東京のビルは 戦火に燃え 灰とかするであろ
            う
                                     

帝国の病い
「 戦後 」