金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)

二 「日本の貧困」

        牛肉

帝国の 同胞よ!
同胞よ
はたして このままで いいんでしょうかね

有名な バレリーナに なるためならば
踊る 足の 指に
牛肉を 巻いて
豊かな 足を かかげて
踊りを 踊っても
飢えた 隣人の 前で
あの 飢餓の 子どもたちの 前で
すこしも 恥ずかしくは ないのでしょうか
はたして このままで いいんでしょうかね

帝国の 同胞よ!
同胞よ
食べ残した 食べものは 捨てられ
残飯として 捨てられ
残飯として 捨てられているのに
飢えた 隣人たちは 国境を 越えているん
 ですよ
あの 飢餓の子どもたちは 今日も 数千
 ずつが 倒れているんですよ
すこしも 恥ずかしくは ないのでしょうか
はたして このままで いいんんでしょうかね

帝国の 同胞よ!
同胞よ
豊饒の 牛肉は
猫に
犬に
善良な 顔して やさいしい手で
かたまりで 与えるのに
猫は 可愛がられるのに
犬は 可愛がられるのに
帝国の 軍備は 増強され
鹿児島では ミサイルの 実射訓練が、
三沢基地では、F16の 実戦配置が、
米軍横田基地では、核兵器輸送機の 発着が
誇らしげに 行われているのに
飢えて 死んでいく あの 隣人たちの 前
 で
飢餓で 倒れている あの 子どもたちの前
 で
すこしも 恥ずかしくは ないのでしょうか
はたして このままで いいんでしょうかね
帝国の 同胞よ!
同胞よ
牛肉を 巻いて 踊る あの 足指に 禍い
 あ ありましょう
牛肉を 猫に与える あの 指に 禍いがあ
 りましょう
爆弾を 造り 殺りくの 軍事演習を 行な
 う あの 命令の 指先に
禍いが ありましょう
あなたがたが 飽食している 食べものは戦
 利品であり
あなたがたが 好んでいる 牛肉は 民衆の
 肉塊であり
あなたがたが 飲んでいる 飲みものは 民
 衆の 血であり
あなたがたが 楽しんでいる 歌は 民衆の
 呻き声であり
あなたがたが 蓄積している 財産は 搾取
 の 証言なのです
すこしも 恥ずかしくは ないのでしょうか
はたして このままで いいんでしょうかね

帝国の同胞よ!
同胞よ
牛肉は まず 腹を空かせた 隣人に 分け
 られなければ なりません
飽食の 食べものは まず
どこかの 地で 昼夜の 区別なく
飢えた 隣人と 飢餓の 子どもたちと と
 もに
分けられなければ なりません

帝国の同胞よ!
同胞よ
すこしも 恥ずかしくは ないのでしょうか
帝国は
はたして このままで いいんでしょうかね
 
飽食
東京の鳩