金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)

二 「日本の貧困」


     駅前の屑籠に閉ざされた
     平和のメッセージ

ヒロシマでも ナガサキでも
平和の 石像は 建てられ
アジアの 平和と
世界の 平和は
この地から 最初に 叫ばれるが
あの OTHレーダー 建設計画と
空に轟く 戦闘機の 飛行と
海に 増える 軍艦の 爆弾は
どこで
小さな 村の平和を 打ち壊そうとする
軍備拡張なのですか

速い電車は 多忙な 市民を ひっきりなし
 に 運び
鉄路に したがわなければ 友にも 会えぬ
この 都市で
あなたがたの 叫ぶ 平和の メッセージは
どうして 駅前の 屑籠の中に
ぎっしりと 閉ざされて いるのでしょう
あなたがたが 主張し 叫んできた
平和の メッセージは
どうして 駅前の 屑籠の中で
深い 眠りに おちているのでしょう

ヒロシマでも ナガサキでも
平和のための 国際会議は 派手に 宣伝され
アフリカの 飢餓克服と
中東の 平和原則は
この地から 最初に 叶えられたのに
あれほど 飽食している 食卓の 宝は
どうして 蓄えられてばかり いるのです
分けられず どうして
侵略の 餌食と なるのです

朝の 出勤時にも 夕の 退社時にも
平和の ビラは 駅ごとに 撒かれ
あなたは 手を ひろげ 熱い 胸で
平和の メッセージを 読みも しませんで
 した
あなたは 謙虚に 祈りを 捧げる 気持ちで
平和の ビラを 口ずさみも しませんでし
 た
あなたの 疲れた 家路でも
あなたの 乾いた 家路でも
平和の ビラは
駅前の 屑籠に すぐに 捨てられ
この地で 平和の メッセージは
屑籠の中で 永遠に 眠ってしまう
平和の 抜け殻かも しれません

誰かが まず
平和の ビラを 隣人に 伝えたことが あ
 ったでしょうか。
むしろ
あなたがたが 唱えてきた 平和
平和は
石像に 閉ざされた
刃で 刻まれた 血に 滲んだ 刃の跡かも
 しれないのです
戦車と 戦闘機、軍艦の 進路を
平にする
あなたがたが 唱えてきた 平和
平和は
戦争宣教師の 酔った 説教かも しれない
 のです
でなければ
永遠に 屑籠の中で 眠ってしまった
そして
跡形もなく 消えてしまった
ゴミ処理場の 灰で あるかも しれないの
 です

駅前の屑籠に
溢れんばかりに 積まれ 積まれて
あのように 舞いあがる 平和の メッセー
 ジは
ともすれば この地で
花で飾られた 戦争の 宣戦布告かも しれ
 ないのです
時限爆弾の 破片かも しれないのです
なぜなら
無数の 平和のビラを 呑み込んでいる
駅前の 屑籠は
昨日も 今日も
平和の メッセージを 呑み込む
駅前の 屑籠は
平和の 花が 育たない 空虚 であるから
 なのです

首相が ヨーロッパで アメリカで
平和の 挨拶を 交わす 時も
外相が 中東で 東アジアで
平和の 演説を 熱をこめて する時も
この地の 戦闘用 レーダーは
どこの 民衆の 生を 監視しているのです
 か
どこの 民衆の 生を 脅かしているのです
 か

どうして この地で
平和のメッセージは
屑籠から 真っ先に 灰と なるのですか
誰によって 真っ先に 殺されて しまうの
 ですか
駅前の 屑籠に 閉ざされた
平和の メッセージを
誰が 真っ先に 見ぬふりをして 通り過ぎ
 るのですか

平和の メッセージを!

 
東京の鳩
女工