日本の援助は誰のため

─ ビルマ民主化への道 (2) ─

現地を知らない日本政府

「親日的なミャンマーを孤立させるべきではない。それは中国への傾斜を強めるだけだ」

ビルマの現状に対して、日本政府や一部メディアはビルマ国民の意思とはかけ離れた論調を続ける。日本は、戦後賠償を皮切りにビルマに対して巨額の援助を続け、結果的にいまの軍政を支える役割を演じてきた。

ビルマは確かに「親日的」だ。だが、現地でビルマの人には、ビルマ軍政に対してはっきりと「否」と意思表示をしている米国や欧州の方がより支持されている。


日本政府は、経済的な援助で軍を取り込む「建設的な関与」を続け、ビルマの民主化に貢献できると言い続ける。それは、この国の現状を知らない見方である。

「現地に来た数年前、私たち(日本政府)が何の影響力も持っていないとわかって驚きました。それから、前向きに考えてみると、そんな状況は、少しはよくなったのかも知れません。一つには、私たちは実績を残したからです。もう一つには、(軍政が)外の世界の声を聞くようになったからです。しかしながら、私たち(日本政府)の影響力は、(ビルマ軍政には)まったく通じていません」。

首都ヤンゴンの「ミャンマー大使館」に勤務する、ある日本高官の話である。


そんな日本政府は2002年12月、事実上の援助となる債務救済を行なった。

「日本政府は、ミャンマー(ビルマ)に対し債権1500億円分を帳消しにする。」「日本はこれまでミャンマーに総額約4千億円の円借款を供与している。<中略>88年、クーデターで軍事政権が誕生してから日本は円借款は停止しているが、資金繰りを助けるため、受け取った元本・利息と同額を援助(債務救済無償資金)してきた。」(『朝日新聞』02年12月22日)



また、NGO(非政府組織)のメコン・ウォッチは報告する。「バングラデシュに次いで2番目に多い700億円もの『債務救済無償資金協力』を受けたビルマ(ミャンマー)について調査しました。<中略>わずか4年間で50億円もの使途不明金が見つかったのです。

しかも、使途が明記されたものを見ても、2番目に多い26億円近くをミャンマー木材公社が伐採用重機などの購入に充てていることがわかりました。ワシントンDCの世界資源研究所(WRI)によりますと、この国では、伐採利益は、人権侵害で問題となっているビルマ軍の増強につながっています。つまり、日本の債務救済援助が結果的に軍の拡大につながっているのです」

中長距離バスのパンクは頻繁に起こる。外貨流出を制限
する政府の政策により、車の部品の輸入もままならない。

(首都マラングーン郊外、2003年8月)

いったい債務救済で浮いたお金は何に使われているのか。それは首都ヤンゴンのミンガラドン空港にいけばわかる。静かな朝の空気を切り裂く戦闘機のジェット音が聞こえるか らだ。

爆音は、ロシアから購入したミグ戦闘機が発している。その購入代金は1億3000万ドル(約162億5000万円)になるという。支払いは、隣国タイに売った天然ガスの売り上げだとされている。

停電が頻繁に起こる首都を抱え、国民は経済的にあえいでいるのに。そんなビルマが軍用機を買うための債務免除をするのはどういうことだろう。

キンニュン氏が首相の職を解任される先月、米国のマコーネル上院議員(共和党)は上院でこう証言している。

「議長、2003年10月以降、日本政府がビルマに対し少なくとも案28の件について、合計1800万ドル以上もの援助を行っているという情報が入っております。

これらの中には正当性を持たぬまま抑圧政治を行っている国家平和発展評議会(SPDC)に直接与えられた援助案件もあるようです」

「ビルマおよびSPDCに対して援助を行うことは、まったく誤ったメッセージをまちがったタイミングで送ることになります。軍政への援助はビルマ国民の苦しみを長引かせ、正当性なく、拷問、殺人、強かんを行ないながら罰を受けずにすむタンシュエ率いる軍政に てこ入れするものです。」(『ビルマ情報ネットワーク』)

日本政府によるビルマへの支援がどうして続くのか。

一つには、ビルマを孤立させてはならないという理由が、一部の研究者やメディアで繰り返されることである。

本来ならば 政権を握っているはずのNLDを「最大野党」としたり、中断された「国民会議」を、まるで国民が参加し、その意思が反映されるような会議だと報じている。

スーチー氏の態 度を「妥協を許さず、頑固すぎる」と評する人もいる。だが、現地で市民の声を聞いて感じたのは、スーチー氏に対する支持の強さと、市民の声に耳を傾けず権力を手放そうとしない軍政の頑固さの方である。

ビルマで軍が政権を握ったのは62年。軍政を取り込んでの「建設的関与」の成果の失敗は、この数十年の結果から明らかである。ビルマの現状は変わらないのではなく、状況はますます悪くなっているのである。だからこそ、日本政府はビルマに対し、もっと強い態度を示すべきではないのか。