ビルマ
アジアから孤立する軍事政権(上)

─ アウンサンスーチー氏 と その思想は生きている ─

日本の迷走する外交政策に
冷ややかなアジア諸国の眼


 米国は、ガンバリ氏のビルマ訪問の報告を受け、非公式会合でビルマ問題を安保理で再討議しようとした。国連安保理の公式な議題としてビルマを取り上げるのは、同国に深い利権を持つ中国やロシアが反対するのは容易に想像されていた。だが、率先して反対したのは日本だった。の大島賢三国連大使が、「国連安保理は、世界の平和と安全に対する脅威に責任があるのであって、ビルマは国際社会の脅威とはなっていない」と発言し、中国とロシアに同調したことは、多くのビルマ関係者を失望させた。


 タイ発行の英字紙『ネーション』は、日本の立場を批判的に見る。 「対東南アジア政策のことになると日本の方針は、首尾一貫してない。国際社会で尊敬を得る立場を求めるとしたら、たとえば対ビルマ政策に関しては失敗している」  タイは、ビルマからの難民約14万人を抱え、麻薬や覚醒剤流入の被害を受けている。それゆえ、ビルマ問題は、ビルマの「国内問題」ではなく、自国の安全につながる国際問題なのだ(一条徹也「急増するビルマのカレン難民」本誌6月9日号)。
  安保理への付託を拒否した日本政府(外務省)は、このビルマの件に関して、日本国民にどのような説明をしているのだろうか。外務省のホームページを開いてみた。
  驚いたことに、「ミャンマー」のページ(アジア>ミャンマー>基礎データ:7月7日現在)は、2005年8月から更新されていない(『平成十八年度外交青書』には「ミャンマー」の記述がある)。  さらに現在、甚大な被害が進行中で、国際社会の安全にも関わるという「難民情勢の ページ」に関しては、なんと2001年9月から全く更新されていない有様である。
  日本は、その対ビルマ外交を「制裁を課すよりもASEANと協調することを重要視している」と言い続ける。だが実際、日本の国民が一番アクセスしやすい外務省のホーム ページを見るかぎり、アジア軽視ともいわざるを得ない日本政府のビルマへ関与の仕方があらわれている。


脈々と生き続ける民主化支持の底流

 6月初め、ビルマから「スーチー氏、緊急入院か?」という一報が流れ出た。もっともすぐに、スーチー氏の容体はそれほど悪くなく、かかりつけの医者の往診によって、氏の無事は確認されたとの追加情報が流れた。  その時、最初の情報で、ビルマの民主化運動を求める人びとの間には衝撃が走った。それは、ビルマの民主化勢力側の活動も、スーチーという一人のカリスマ的な人物に頼り切っていることを示している。
  あるいはまた、「スーチー氏は、ビルマの民衆に支持されていない。西側諸国の、とくに英国や米国のあやつり人形にすぎない」と揶揄する声が日本にもある。だが、それはビルマの現実を知らないからだろう。  影響力がないなら、軍事政権はそれほど、たった一人の女性の動きにこだわらないはずだ。  軍事政権の代弁ともいえる国営英字紙『ミャンマーの新しい灯』は7月2日、見出し付きで「NLDの活動を信頼できなくなったディペインで、20人の党員が党から離れる た」と伝えている。ほぼ同じ内容の記事は、今年5月から6月にかけて、連日報じられている。
  それに対してNLD側は、「実際は、政府の圧力により、党員はNLDから離脱させられているのだ」と反論する。  さらに7月5日付けの同国営紙では、見開き四ページを割いて、スーチー氏とNLDに対する強い非難を浴びせている。
  「かつて共産党は国家への脅威であった。現在、スーチー氏とNLDが国家への脅威となっている」「スーチー氏のNLDへの影響力はなく、党員の減少が続いている」「NLDもスーチー氏も、もはや寿命は尽きたのだ」「彼女が今の思想を持つ限りは制限(自宅 軟禁)は解かれない」「1990年の選挙の結果は、無きに等しい」「彼女の現在の悲惨な現状は彼女自身が引き起こしたもの。自業自得であって、政府とは関係がない」  SPDCのチョーサン情報大臣は「NLD政党の非合法化もあり得る」とまで言い切る。
  どうして軍政はそこまでスーチー氏とNLD潰しに躍起となるのだろうか。それは、裏を返して言えば、それだけスーチー氏とNLDは民衆から支持を受けているからだ。


 私が最後にスーチー氏本人を目の前にしたのは、1996年6月のことだった。あれから11年の歳月が流れた。自宅軟禁と解放。そのたびに多くのメディア関係者がスーチー氏に直接接触してきた。その中で、スーチー氏がある記者に話した言葉を伝え聞いた。おおよそ次のような内容だった。 「私は一人のビルマ人(政治家)にすぎません。私のところに来るよりも、ビルマの普通の人の現状を取材してください。彼らこそがこの国の主人公です」  もちろんビルマは軍部が隅々まで目を光らせている管理国家である。そのため、自由な取材は不可能に近い。また、観光客としてビルマに入ったとしても、その実状はうかがい知ることはできない。
  ただ、その気になって、注意深くビルマの街角を観察してみれば、あちこちにNLDの看板を見つけることができるはず。  それは、SPDCが人びとにどれほどの圧力をかけても、スーチー氏やNLDを支持する勢力が全国規模で存在するという証である。軍部は、その支持の強さを知り尽くしている。それだからこそ、幾ら国際社会から圧力をかけられようが、自国民に対する締め付けをゆるめられないのだ。


*ビルマ国内では、政治に関わるのは非常に危険である。国民には義務として通報制度がある。外国人がNLDのオフィス前で写真を撮ると、その行動はすぐに当局に通報され、滞在先のホテルに問い合わせが入り、本人の身元が調べられる


首都、各地のNLDオフィス

ザガイン管区ザガイン。

マンダレー管区ニャンウー。
カチン州:ミッチーナ。
マンダレー管区マンダレー。
シャン州チャイントン。
イラワジ管区ターヤワディー。
シャン州ティボー。
マンダレー管区マンダレー。
モン州モルメイン(モウラミャイン)。
ただし、政府の圧力により、数年前に活動を停止。
ラングーン(ヤンゴン)タームエ。