「 地球をたがやす 」

「 最終地点から始まる営み 」
(5月3日)
あたり一面を覆う猛烈な臭気で目を開けていられない。2時間も撮影していると、湿気と
暑さと疲労で吐き気がしてくる。
94年、私は中米ニカラグアのごみ捨て場にいた。ぼんやりとした頭で撮影を続けるうち、
柔らかい地面に足をとられて転んでしまった。よく見ると、腐乱したヤギと鶏の塊に足を
突っ込んでいた。
ニンジンやキャベツの切れはし、パック入りジュースの残り、衣類や建築廃材、朽ちかけ
たダンボール箱、原型をとどめないプラスチック製品の残骸など。目の前に日常生活の
終わりが迫ってきた。
「オーラ!、オーラ!(こんにちは、こんにちは)」
スペイン語で声をかけながら再びシャッターを切っていく。のどが異常に乾き、持ってき
たペットボトルの水もすぐになくなる。空になったボトルを片手に、困った顔をしていたの
だろう。
「チーノ(東洋人への呼びかけ)、食べるか」
ごみの中から拾ったスイカを差し出してくれたおじさんがいた。場違いの異邦人にけげん
な顔をしていた人に、ようやく受け入れてもらえたのか。ここで場で働く人との一体感を
感じた。
日暮れが近づいてきた。暗くなると、さすがに物騒になる。最終バスに間に合うように帰路
を急ぐ。ふと後ろを振り、その風景に息をのんだ。
ごみ平原の向こうに、畑に鍬を入れるような姿があった。その瞬間、大地をたがやして生
きる人間を思い浮かべた。
ああ、ここでは、人の暮らしの最終地点から、再び生活を始める営みが始まっているのだ。
何も産み出さず、写真ばかり撮っている自分と、彼らを一体化した自分の傲りを恥じた。
たがやす3
たがやす5