「 地球をたがやす 」

「 ライトをつけ、夜11時まで労働 」
(5月24日)
2000年11月、カンボジアの首都プノンペンのスタメンチャイ地区に入る。
その日は一日中、厚い灰色の雲に覆われていた。夕暮れが近くなり、
雲の隙間からオレンジ色の太陽が顔をのぞかせる。腕時計の針は6時前を
指していた。
ごみ山のてっぺんでひと休み。露出計で光の強さを計ってみる。もう撮影は
無理な明るさだ。私の一日は、これで終わり。しかし、ここで働いている人
びとはまだ、汗を流している。
私の横に、10代半ばの男の子が2人、しゃがみ込んでいた。
「名前はなんていうの」
「ケムシェ」
大きい方の男の子が答えた。クメール語ができない私には、それ以上の会話
は難しい。
5歳くらいの女の子が、ご飯の入った容器を運んできて、3人で仲良く夕食
を食べ始める。小さなスプーンに白いご飯と青い野菜のスープをのせ、口に
運ぶ。
「おいしいん?」
私の関西弁を聞いて、3人が顔を寄せ合ってクスクス笑う。ブンブン飛び回
っている蝿が、ご飯やスープの容器、体中にまとわりつく。
辺りは完全に暗くなり、ちょっと離れた人の表情は見えなくなった。ライト
をつけたブルトーザーはうなり声をあげ続ける。
「いつまで働くの」
身ぶり手ぶりでケムシェ君に尋ねる。
「夜11時まで」
何かの間違いではないかと思って、何度も確認した。夜11時といえば、私
は真っ白なシーツのベッドの上に転がっている時間だ。
ご飯を食べ終わったケムシェ君の頭には、ライトがしっかり取り付けられていた。
たがやす6
たがやす8